駿台甲府高等学校同窓生医師による医療情報 ドクターリレー Vol.7
2012年12月3日
横 山 照 夫(4期、国立病院機構 相模原病院 神経内科)
私の母校 駿台甲府高校の関係者のみなさんへ
問題です。人はどのような方法で形作られるのでしょうか?
2003に完了したヒトゲノム解析で判明した約2万3000組のDNA遺伝子情報の違いから 親と同じ顔・肌・体格・脳や心臓・内臓機能 ときには似たような病的な資質まで説明できます?
正解ですが、現在の生化学的研究では説明が不十分です。人を形作るためには23,000種類以上のタンパクが必要で、実際の人間の中には100,000を超える種類のタンパクが確認されています。遺伝子=DNAといった考えでは、現在の生化学・遺伝子学ではすでに通用しない時代になっています。
問題の曲者は、DNAから翻訳されてタンパクを作り出すために細胞核内・核外で変化をきたすRNAです。個別のタンパクを作り出す種類のRNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれておりますが、これは容易に姿をとらえきれないのです(目的のタンパクを作った後 すぐに分解されてしまう性格を持っています)。ごく最近の研究で判明したのはmRNAの合成過程でmRNAの前駆体(pre-mRNA)が、ほかのタンパク等の影響で、巧妙に切断・再結合(スプライシング等)されることで、多彩なタンパク情報を形成することが判明しています(スプライシングの詳細な機序は判明していない点が多いのですが)。
ここまでは教科書に書いてあり、他人が用意した解答がある いわゆる勉強の範疇の問題です。ではスプライシング等が上手くいかなかった場合 人はどうなるのでしょう。
多くの研究者は遺伝子を操作した実験動物で検索を行っていますが新しい発見はなかなか難しいようです。私は臨床医なので動物実験はできませんが、たまたま解剖した人の脳の中にRNA(たぶんリボソームRNA)の形成が上手くいかなかった神経細胞を見つけました(機能不全のリボソームRNAの大量の集積)。どの様な過程でRNAの形成が上手くいかなかったかについては現在も検証中です(たぶん人の成り立ちに深く関わる過程です)。
解答のない問題を解決することは、研究と呼ばれ勉強とは違った作業に属するものと私は考えております。中学・高校から始めた勉強がいつの間にか研究へと変化しました。
研究者がほかの人に比べて偉いと私は考えてはいませんが(高校の時さぼったせいで同級生に比べて成績がダメダメだった私が言うべきではないかもしれません)。
皆さんも20年30年勉強を続けているうちに 研究者として世の中に立っている可能性があるのかもしれません。